2007年度第26回室井ゼミ報告:第10章(12月17日)


     第10章:権原と剥奪


   座長:藤巻伸悟・渡邊慶人(4年生)
   報告者:大場彩香(3年生)
  コメンテーター:平瀬浩一(2年生)
         


<報告者レジュメ:大場彩香

1 食料と権原

☆FADの見方
 ・飢饉は食料総供給量の減少によって引き起こされる。
 ・食料総供給量の全般的な低下が起こらなくても飢饉は進展し得る。
 ・FADアプローチは人々と食料の関係に立ち入らないため、飢餓の因果関係を
  解き明かす端緒をほとんど与えてくれない。


食料を中心に据える見方
 ・食料供給量が低下していないにも関わらず、いかにして飢餓が進展するのか教
  えてくれない。

 ・飢餓が食料供給の低下を伴っている時でさえ、何ゆえほかの集団は食べ物を得
  ることができるのに、ある集団が飢えなくてはならないのかについても明らか
  にできない。

 ・特定集団にもたらされる食料に注目すると、飢餓が起きたことの説明というよ
  りも、飢餓それ自体の単なる描写とほぼ同じことをしている


☆飢餓は所得と購買力の不足によって引き起こされる??
      ↓↓↓
  所得を中心に据える見方は権原パターンを不完全にしか描写できず、不十分。

《権原アプローチ》
 ・ある人が、財一般とりわけ食料を手に入れる能力に関して、より包括的な説明
  を提供する。(←主要な利点)

 ・経済現象から社会的、政治的、法律的問題へと分析を進める。
 ・ある人が十分な食料を手に入れて飢餓を避ける能力を持つかどうかを左右する
  のは権限関係全体であり、食料供給は、その人の権原関係に影響を与える多
  くの要因の中の1つにすぎない。

 ・飢餓は食料不足によってではなく、所得と購買力の不足によって引き起こ
  される。

 ・市場経済では、所得は食料に対する権原をもたらす

2 貧困層―正当な範疇?

・飢餓や飢饉もしくは貧困の分析を行う時、権原アプローチではある種の識別に
  基づいて範疇分けをする必要がある。


☆《FADアプローチ》
 ・最も大づかみの範疇は人口全体。FADが一人当たり食料供給量を調べる際
  に焦点を当てるのはこの範疇。この点で、FADは破綻する。


☆《権原アプローチ》
 ・粗雑さを否定するだけではなく、異なる集団の権原を特徴づけることができ
  るように、それぞれの集団が同様な賦存量と権原を持つ人々から成るよう、
  範疇を精緻化することを要求している。


☆《貧困層という範疇》
 ・貧困の程度を評価する際には役立ち、幾分かの正当性があるのは明らかで
  ある。


 (問題点)評価を行う際には不適切。政策上の問題を歪める効果をもつ。政策
   選択の焦点を欠く原因となる。評価の粗雑さも歪曲効果を持ちえる。


3 世界の食料供給と飢餓

・ある国の全世界の人口に対する食料供給量に関心をあてるFADアプローチ
  は適切に人々を区別することのない大雑把なアプローチであるにもかかわら
  ず、世界の食料供給と、世界の人口のバランスをとることは近年大いに注目
  を集めている。

  ・また、将来はさておき現在に関する限り、食糧増加が人口増加に後れをとっ
  ているという証拠は存在しない。


 ・権原アプローチは食料生産を関係のネットワークの中に位置付けるもので
  あり、これらの関係のどこかで変化が生じれば、食料生産からの衝撃を何
  ら受けなくても大規模な飢饉が突然起こりえるのだ。

 ・特定の国々における食料供給の変動を軽減するために国際的な保険取り決め
  を検討することは、価値があることだ。

 ・国際的食料援助が国内の生産と分配および国際的食料価格にどのような影響
  を与えるかを知ることは、的を得ている。

 ・食料のバランスシートを作り、それを社会勘定計算の中に組み込むこと、お
  よび「食料システム」 のより精緻な分析を行うこともまた、有益である。

 ・食糧問題を権原関係のネットワークの観点から、人々と食料との関係として
  把握する必要がある。


  本書が注目したのは、権原関係の観点から見た飢饉の多様な一連の諸要因で
 ある。食料政策を検討する際に、この研究から明らかになるのはこうした視角
 の重要性である。


4 市場と食料の移動

 ・食料を移動させることによって、飢饉を解消する救済的機能を、市場はうま
  く果たるかどうか大いに議論されてきた。

 ・カタック管区における急を要する穀物需要は、より恵まれた他の地域からの
  供給を生み出したはずだが、現実に食料の移動が起こるべきだったのに実際
  には起こらなかった。

 多くの飢饉において、飢饉が猛威を振るっているさなかに、飢饉に見舞われ
  た地域から食料が輸出されつつある、との苦情が聞かれた。

    (EX,ウォロ、バングラデシュ、アイルランド

 ○権原の観点から見ると、飢饉に見舞われた地域から他の地域に食料を持ち去
  るように市場メカニズムが働くことには、何の不思議もない。市場需要は生
  き物としてのニーズや心理上の欲求を何ら反映するものではなくて、交換権
  原関係に基づく選択を反映したものである。飢饉に見舞われた地域から食料
  が輸出されるのは、ニーズよりも権原を尊重する市場の「自然な」特徴なの
  であろう。


5 権原の失敗としての飢饉

 《権原アプローチ》 

  飢饉=経済的惨事としてとらえる。飢饉の犠牲者は共通の苦境を味わって
   いるが、その窮状に至った経済的要因は極めて多様である。


  法的、経済的、政治的、社会的特徴に応じてその社会で機能している権原
   関係を用いることによって、異なる階層の人々が食料を手に入れる能力
   に焦点を当てている。


   @飢饉を分析するための一般的な枠組みを提供するもの。
   A飢饉は経済全体の好況時にも起こりえるし、不況時にも起こりえる。
   B食料供給量の減少と、食料への直接的権原の減少とを区別することが
   重要である。 
  C権原に焦点を当てることは法的権利を強調することである。


  飢餓による死とは、その社会で何が合法であるかを極端な形で映し出して
  いるといえる。


 論点:権原と剥奪を通して、飢饉について考える。

<コメンテーターレジュメ:平瀬浩一

1 食料自給率

 食料自給率とは・・・
・農林水産省では、食料自給率を「国内の食料消費が、国内の農業生産でどの程度
  賄えているかを示す指標」と定義している。

 ・「食料需給表」には、「品物別自給率」・「穀物自給率」・「供給熱量総合自給
  率」・「金額
  ベース総合食料自給率」がある。

 ・品物別自給率→品目ごとの自給の度合いを示す。
 ・穀物自給率→基礎的な食料である、穀物全体の自給の度合いを示す。

  これらの2点は、重量ベースとして、算出される。

 ・供給熱量総合自給率、及び、金額ベース総合食料自給率は、全ての食料についての
  総合的な自給の度合いを示す。多くの食料を、総合的に扱うには、重量ベースを
  算出するのは適切でないため、これらの2つが採用された。


 日本における食料自給率とは・・・

 (平成17年度における各々の自給率)


(穀物自給率)→28%、(供給熱量総合自給率)→40%

(主食用穀物自給率)→61%、(金額ベース食料自給率)→69%

2 天保・天明の大飢饉

 ・天明・天保の大飢饉(1832〜1837年)に起きた、日本史上例をみない餓死者を出した飢饉として有名である。天明2年(1782)の暮れは、冬にもかかわらず温暖であり、逆に年が明けてからは寒気が厳しくなり、5月の田植え時期には、長雨と冷気によって重ね着をしなければならなかったほどである。もちろんのこと作物の出来は悪く、収穫高は前年の約3分の1であった。土用の頃にも、寒冷で曇りがち。丑寅の風といわ  れるヤマセ風が各地を襲ったと言われている。

 (飢饉の中での民衆と藩)

  ・このような惨状になる前に、当然民衆は、領主に対して騒動や一揆をおこし、食料米の確保や米穀商による買い占め・売り惜しみ禁止などを要求し、全国各地、混乱が続いた。

  ・また、飢饉に備えて、蓄えてある藩の米を放出したが、藩は長年にわたる借金を返済するためには、米を売り払うしか手段がなく、一揆の首謀者らを弾圧し、米の領外移出を強行した。大飢饉の被害は、いわば、領主の危機管理意識の薄さによってもたらされたのである。

  ・飢饉がひどくなると、人々は様々な対策をとらなければならなかった。秋までのうちは、山野に入り、ワラビ・くずの根・木の実などを採って、命をつなぎましたが、冬に入るとそれもできず、衰えて餓死を待つだけであった。また、体力が低下してくると、時疫・熱病・傷寒などに侵される人々が多くなり、これらが死因に繋がった。中には、領外に逃亡して、食料を求めたり、乞食・非人となって、町に出る農民もいたが、江戸時代には農民の移動の自由がなく、結局は、元の村に戻らされ、死をまつだけとなったのである。

○最新の都道府県別食料自給率(単位:%、倍)
都道府県 カロリーベース 生産額ベース (参考)
B/A

16年度
(確定値)
(A)
17年度
(概算値)
16年度
(確定値)
(B)
全 国 40 40 69 1.8
北海道 200 201 180 0.9
青 森 117 115 222 1.9
岩 手 106 103 176 1.7
宮 城 84 78 106 1.3
秋 田 141 164 139 1.0
山 形 122 127 157 1.3
福 島 85 82 117 1.4
茨 城 72 71 128 1.8
栃 木 81 75 124 1.5
群 馬 34 34 93 2.7
埼 玉 12 11 23 1.9
千 葉 30 29 76 2.5
東 京 1 1 5 5.7
神奈川 3 3 13 4.7
山 梨 21 20 95 4.6
長 野 53 53 127 2.4
静 岡 18 18 56 3.1
新 潟 89 94 118 1.3
富 山 72 72 75 1.0
石 川 48 46 64 1.3
福 井 66 63 68 1.0
岐 阜 26 25 50 1.9
愛 知 13 13 37 2.8
三 重 42 42 78 1.8
滋 賀 53 51 46 0.9
京 都 13 12 24 1.9
大 阪 2 2 6 3.5
兵 庫 16 16 38 2.4
奈 良 15 14 31 2.0
和歌山 29 30 111 3.8
鳥 取 57 59 118 2.0
島 根 63 63 110 1.7
岡 山 37 37 67 1.8
広 島 23 23 39 1.7
山 口 28 32 54 1.9
徳 島 44 44 126 2.8
香 川 35 36 97 2.8
愛 媛 38 39 124 3.2
高 知 44 47 141 3.2
福 岡 19 22 40 2.1
佐 賀 84 96 144 1.7
長 崎 41 42 130 3.1
熊 本 52 58 147 2.8
大 分 46 48 132 2.9
宮 崎 60 62 247 4.1
鹿児島 78 83 211 2.7
沖 縄 27 28 56 2.1

(注)1 都道県別自給率は、「食料需給表」、「作物統計」、「生産農業所得統計」等を基に農林水産省で試算
   2 総人口は総務省「平成17年国政調査」(17年10月1日現在)、
    農業就業人口は「2005年農林業センサス」(17年2月1日現在)、農地面積は 「耕地及び作付面積統計」(17年7月15日現在)
 

参考文献

http://www.pref.aomori.lg.jp/kyodokan/file/kaisetsu/14_his05.pdf#search

http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/0546.pdf#search

http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/index.html(農林水産省)



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