第12章 社会的目標としての個人の自由
訳者あとがき・総括
座長:市澤 麻由子・犬飼 敏(4年生)
報告者:青山 奈美子・佐野 将史(3年生)
コメンテーター:近藤 理恵・松下 あず実・小野 舞子(2年生)
<報告者レジュメ:青山 奈美子>
第12章 社会的目標としての個人の自由 訳者あとがき
人間には、生きる世界を自分たちで発展させ、変える責任があるのだという主張の持つ力を認めることはでき、人は、この基本的な関係を受け入れるのに信念の有無を問われる必要は無い。一緒に――広い意味で――生きている人間として、身の回りに目にする恐ろしい出来事は、本質的にわれわれの昔の問題であるという思いから逃れることはできない。責任の認識は必ずしも、自分自身の行動が他者に引き起こしたかもしれない苦痛にだけ関係するものではない。責任は、関心を要求される唯一の要件ではない。
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*自由と責任の相互依存*
・敗北主義の効果:責任に関する問いはもう一つの問いを引き起こし、他者への依存
は、倫理的問題があるだけではない。個人の自主性、努力、自尊心さえも弱め、最
終的になる主義。→このような思考にいたる関心事は、非常に重要である。
・責任の分割の効果:ある人の利益の面倒を見ることを他者に負担させるというのが
責任の分割であり、多くの重要なもの(動機付け、関与、その自身の固有の立場が
可能にする自己認識)を失う。
・個人の責任に取って代わる社会的責任を認めることは、反生産的にならざるを得な
い。→個人の責任の代替物は無い。
・責任ある人生を送る能力は、特定の種類の「基本的自由」を保有していることにか
かっている。→責任は自由を要求する。⇒人々の自由を拡大するための社会的支援
を主張することは、個人の擁護であり、それに反対することではない。自由と責任
のつながりは、両方に作用する。ある人に何かをする本質的な自由と基本的な潜在
能力が無ければ、その人にはそれをする責任はありえない。何かをする自由と潜在
能力を実際に持つことは、その人にそれをすべきかどうかを考える義務を課すので
あり、ここに個人的責任が絡んでくる。この意味で、自由は、責任にとって必要条
件であるとともに十分条件である。
*正義、自由、責任*
−評価についての理論−
@センは、個人的な利益を判断し、社会的な達成と失敗を評価するうえで本質的自由
(自分で生きたいと思うだけの理由のある生活を送ることの出来る潜在能力)が何
よりも重要であることを主張。
A自由には、不可避的に多様な種類がある。⇒自由の「機会の側面」と「過程の側面」
の区別。
◎自由中心のアプローチ:効率と平等の相対的な要求について、重点の置き方を違え
ることができる。@自由の不平等を少なくすること(平等志向)A不平等とは関係
なくすべての人に出来るだけ大きな自由を与えること(効率志向)→アプローチを
共有すれば、同じ一般的な方向を持つ、いくつかの違った正義論の群を形成するこ
とが可能になる。
問題:@とAの対立 提案:効用の理論の要求 ロールズの格差原理
・自由と分配の関心事に注意を払うことの必要性と相まって、公共政策において
無視された問題⇒自由という観点から見た貧困、不平等、社会的実績
・正義の考えは、基本的な問題を避けることの出来ない重要な問題。それは、相対
的ウエイトのはっきりした輪郭を持つ方式を「正義の社会」の青写真として一つ
だけ選択することにはならない。
例:防止可能なのに飢饉を起こさせてしまう社会の診断は、明白な不正義が何で
あるか?を明らかにすること。
B批判的な評価と価値形成の過程とに参加する自由は、社会的存在にとっての最も重要
な自由の一つ。
・開発に関する文献でしばしば提議されてきた問いは、根本的に間違えている。民主主
義と基本的な政治的権利、市民的権利は、開発の過程を促進するのか?
→ むしろ開発の過程を形成する本質的なもの。道具としての役割とは全く別。
C本質的な自由に焦点を当てるアプローチ:不可避的に個人の能動的な力に着目→自
分の潜在能力をどう使うかを決めるのは自分→しかし、ある人間が実際持っている
潜在能力は、社会的制度の性格にかかっている。これは、個人の自由にとって決定
的に重要で有り得る。→国や社会は責任を逃れられない。
例半奴隷労働、経済政策、雇用機会、教育制度、財産権等々。
*自由はどのような違いをもたらすのか*
自由とは;
・アリストテレス、ウイリアム・ペティ(近代経済学者)−「明らかに富はわれわれ
が求めているものではない。役に立つもの、何か他のもののために過ぎないから
だ。」
・自由の向上は経済的、社会的変化を評価する際の動機として最終的に重要な要因で
ある。
・アダム・スミス−重大な人間的自由にはっきり関心を示している。
ように転換する」ことの重要性を強調。
・ジョン・スチュワート・ミル−功利主義的な考え。助成の重要な自由が否定されて
いることに特に怒りを表明。
・フリードリヒ・ハイエク−経済的進歩の成果を、自由についての非常に一般的な
体系化に置くことを強調。「経済的な考慮は、異なる目的を調和させ、調整する
ためのものに過ぎないこうした目的は最終的には、経済的なものではない。」
W・A・ルイス−開発の目的は「人間の選択の幅」を大きくすること。→最終的
な分析の焦点を「一人当たり生産の成長(理由:人間に状況を支配する
より大きな力を与え、自由を増大させるから)」に置くことを決めた。
*なぜ違いが生じるのか*
・違いとは・・・ルイスが選択した“「一人当たり生産の成長」(一人当たり
GNP)に焦点を当てる開発分析”と“人間の自由の増大という根本的なことに
専念すること”との間の違い。 →自由に焦点を当てることは、相違を生む。
〜人間の『自由としての開発』がありきたりの開発観とは違う理由〜
@自由は価値ある結果を達成する機会と共に意思決定の過程にかかわるもの。
→生産や所得、消費の促進の結果だけでは不十分だから。
A過程としての側面よりも、機会としての側面そのものの内にある対照に関係。
→ 調べなくてはならないのは、政治的、社会的、経済的過程に含まれる自由に加
えて――人々が価値を認める理由のある結果を達成する機会をどれほど所有してい
るかであり、非所得変数は、経済的繁栄とは結びつかないから。
つまり、
・自由の過程の側面と機会の側面は、「一人当たり生産の成長」を基準にする開発の伝統的
な見方を大きく超えることを要求。⇒自由をその使用だけを理由に価値あるものとす
る考え方とそれを超えて価値あるものとする考え方の間には、根本的相違がある。
ハイエク「ある特定のことをする自由があるということは、われわれあるいは多数の人
がその可能性を利用しそうかどうかとは関係のないことだ(純粋路線:自由をその
実際の使用とは全く切り離すこと)」と言った。⇒自由の派生的な重要性(その
実際の使用のみに依存する)と自由の本質的な重要性(実際に選ぶか選ばないか分
からないが、ともかく選べる自由を与えてくれるという意味で)を区別したのは正
しい。→ 例飢饉と断食
○自由には多くの側面がある。それは、⇒過程の側面、(派生的で本質的な重要性とい
う観点からみた)機会の側面。公的な討論と社会的な相互作用に参加する自由は、価
値と倫理の形成において建設的な役割も果たしうる自由に焦点を当てることは相違を
生む。
*人的資本と人的能力*
●人的資本:「資本」として生産に用いることのできる人的ない資質である。生産の可
能性を強化するための人間の能動的な力に集中する傾向がある。直接、間接的な働き
→ 例教育の恩恵 →経済における生産額、所得の増加→商品生産における人的資本
としての役割を超える。
○人的(潜在)能力:人々が生きたいと考える理由のある生き方をし、持っている真の
選択を向上させることのできる能力で、本質的な自由に焦点を当てる。人的資本の代
わりになるものでは無く、人的資本としての追加的、包括的な役割を認識し、大事に
すること。
・アダム・スミスの理論:経済援助と社会開発の総合的アプローチへの回帰が含まれて
いる。生産の可能性がどう決まるかの分析の中で、分業、現場での学習、技術形成と
ともに教育の役割を強調。しかし、価値ある生活を送る上での潜在能力の開発が、
「国の富」についてのスミスの分析にとって中心的なことである。→人間の潜在能力
の改善可能性に大いなる確信を持っていた。生産的な能力と生き方を教育と訓練とに
密接に関連付け、それぞれの改善可能性を想定しているかを知るという結びつきは、
潜在能力の考え方が持つ影響力にとってきわめて中枢的である。 → 人間を生産的
利用という基準だけで見ることは、人間性を軽視することであると強調。
●女性の教育の拡大は、家族内での分配における性による不平等を軽減し、出生率と乳
児死亡率の低下に役立つ。
●基礎教育の拡大は、公開討論の質を改善する。
〜人間の潜在能力の役割を十分に理解する方法〜
1.それが人間の福利と理由にとって持つ直接の意味の認識。
2.社会的変化への影響を通じた間接的な役割の認識。
3.経済的生産への影響を通じた間接的な役割の認識。
⇒ 潜在能力の考え方の持つ意味
*最後の言葉*
・開発に対する一つの特別なアプローチ⇒人間の持つ本質的な自由が拡大するプロセス
⇒ 市場の運用、行政、立法関係者、政党、非政府組織、司法、メディア、地域社会
全般などに関係する多様な社会制度とは、個人の自由を向上させ持続させることへの
影響を通じて、開発のプロセスに貢献するもの。
・自由の特徴は、多様な種類の活動と制度に関係する多様な相互関連性という側面を持
つことである。⇒ 個人の自由を向上させるプロセスとその実現を助ける社会的なコ
ミットメントにとって、様々に異なる断片の全てを統合された全体に位置付けされる
体系の原則は、支配的な関心事である。この統一性は重要である。しかし、見失うべ
きでないのは、自由は、本質的に多様な概念である。それは、過程とともに本質的な
機会を考えることを包含する。
開発=自由(責任)の可能性との重大な契約
訳者あとがき
・センは、開発とは、人間の主体的な行動や理性の持つ力を信じる人間観を実現する社
会構造と考えている。開発をもっぱらGNPや所得の向上、工業化の進展などで測る、
いわゆる「経済発展」としてみる見方を否定するセンの議論は、きわめて強い倫理
的、政治的な主張を含んでいる。最終目標は、『自由』(潜在能力)である。貧困
は、所得の低さのみならず、潜在能力の欠如を意味する。開発とは、このような自
由を拡大すること。
・民主主義や人権、自由は発展途上国にとっては経済成長を達成するまで待つべき「ぜ
いたく」とみなすべきかどうか、ということである。経済開発を効率よく達成するた
めには民主主義や自由は「抑圧すべき」事柄である。自由や政治的・市民的な基本的
権利の価値をそれが「開発に資するかどうかで」評価することは間違いであり、「貧
しい人は政治的、市民的権利への関心を持たない」という見解も誤りであり、独裁制
や民主主義の制限が高度経済成長に有利だという証拠は無い。センは、日本、東、東
南アジア諸国を、基礎教育や医療施設などの普及に重視したことが大きな要因で、経
済成長をしたと評価しているが、民主主義や政治的な自由が欠如していることには、
批判的である。
KEY WORD(4つ)・自由
・潜在能力 ⇒「人が自ら価値を認める生き方をすることが出来る 自由」
・エージェンシー ⇒積極的な作用、活動、力、発動力:主体的、能動的に行動する
力、そうした行動 理由人々が勇気と自由をもって世界に直面することが大事だか
ら。⇒人間は、与えられた機会を活発にそれに関与するものと見られなければならな
いから、変化への積極的参加者としてみるべき。人間は、与えられた機会を活発にそ
れに関与するものと見られなければならない。
・リーズン⇒理性、探求:人間が理性によって自らを変え得る、変わり得るという信念
センは、アダム・スミスが人間の潜在能力の改善可能性について大きな確信を持って
いたことも強調している。
・「開発」というプロセスには、経済理論を超えた総合的な理論とアプローチが必要。
「自由」の範囲は非常に広く、様々な異なった種類の自由の相互関連性が繰り返し強
調されている。
・アダム・スミスを高く評価している理由の一つに、スミスの理論が、経済論を超
えて、総合的な社会論、倫理論を含むことがある。本書の重要な意義は、経済政策や
経済理論の提案よりも、そこから経済理論や経済政策が形成されるための道徳的、倫
理的基盤を形成するものであるように思われる。
・民衆の発言、[政治家の]アカウンタビリティー(責任)と、一人当たり所得、
乳児死亡率、成人識字能力などの開発の測定値の間には強い関係があることが
分かっている。世が行った「貧困の声」調査の結果⇒貧しい人々と富める人々と
を分けるものは発言力だと分かった。貧困は、カネだけの問題ではない。貧しい
人々は、自分たちの考えを表現し、自分たちの代表を選ぶことを望んでいる。
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<報告者レジュメ:佐野 将史>
◎ 人口・食料・自由
・現代はかつてないほどに繁栄しているが、一方で広範囲にわたる飢餓が絶える事なく続いているのは最悪の事態
である。センは飢餓、栄養不良、貧困の問題の性質と深刻さを判断するのに食糧生産ばかりに着目する事に
は反論しているが、それが飢餓に影響を与えている事には違いない。
・食料危機
世界の一人あたり食料生産には実質的な低下はないが、アフリカの食料生産は低下した。しかし、サハラ以南
アフリカにおける問題は主として全般的な経済危機の反映であり、とりたてて「食料生産の危機」ではない。
→ 食料が無いのではなく、( )
・人口抑制と自由
強制はどれほど効果的か
中国は強制的方法の結果合計特殊出生率は1.9%になった。 しかし、女の赤ちゃんが放置され死亡してしまう
ということも起きている。強制的な方法で今日その政策がどれほどの出生率の低下を実現したのかはわからない。*出生率低下の要因としては・家族計画の機会と拡大や・一人当たりの所得向上が挙げられるが、
出世率低下に伴う女性の役割は大きく、根本的に持っている女性の自由の拡大が求められる。
●女性の自由を向上させるために女性に求められる能力とは?( )
●実際にその能力を女性が持つことにより、参政権や平等労働権を得て、家庭内での意思決定能力の向上
⇒出生率の低下につながっている。
◎文化と人権
・人権思想は近年大きく前進したが、厳しい見方をとる人々の間には、どれほどの深さ
と一貫性があるかについて強い懐疑がある。
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正当性の批判
権利は立法によって獲得されなければならない。
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一貫性の批判
権利はそれと相互に関連する義務と対になっている時だけ意味がある。
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文化的批判
人権の考え方は本当に普遍的なのだろうか。という考え方。
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センの主張
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人権を政府によって法制化されたものと同一視しなくてもかまわない。
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人権はすべての人が持っているもの。
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社会の中の様々な異なった階級が、何を保存し、何を捨てるのかの決定に積極的に参加すべきである。
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なぜ人権は大切なのか!?( )
◎ 社会的選択と個人的行動
・理性にもとづく進歩の可能性に対する懐疑論の根拠を探すにあたって、特に注目すべ
きは三つの明確な懐疑論である。
[第一] ある特定の社会においてすら、様々に異なる人々の選考と価値は同じでないの
が現実なら、筋の通った社会評価の首尾一貫した枠組みを得るということは不可能
だという主張。
[批判の第二] 方法論形態をとり、我々が所有したいという意図するものを所有でき
る能力を疑問視する主張に依拠(いきょ)。現実の歴史は、「意図せざるもの」に
よって支配されていると主張する。
[疑いの第三] 人間の価値と行動範囲がどれほどの幅を持ち得るかについて抱く懐疑。
我々の行動様式は狭い意味の自己利益を超えることができるだろうか。
[センの主張] この章の主たる関心事は、自由を向上させるための開発を達成するこ
とにおける価値と論証の重要性を調べることにある。
(ここから授業)
・どのような社会選択をすれば自由を向上させる開発につながるか?
⇒ 理性的な選択 → 公正な観察者による選択。(人権を守るための選択)
・中国の一人っ子政策〔社会的選択〕は理性に基づいていない。
⇒自由を向上する開発にはつながらない。
↓
社会的選択(マクロ)or個人的行動(ミクロ)
・社会的選択を取ると、個人の自由は保障されないのでは?
・共存するには、政府による社会的選択を人々が理解することになる。これには、社会が理性を
失ってはいけない。
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<コメンテーター・レジュメ:近藤 理恵>
はじめに・序章
●私たちが今生きている世界は、かつてないほど豊かである一方で、驚くべき欠乏、貧窮、そして抑圧の世界でも
ある。
・ いつまでも続く貧困
・ 満たされない基本的な生活の必要条件
・ 繰り返される飢饉と大規模な飢餓
・ 初歩的な政治的自由や基本的自由の侵害
・ 広範な女性の利益や能力の無視
・ 環境や人間の経済的、社会的存続への脅威の増大
・これらの欠乏の多くが、貧しい国だけでなく、豊かな国でも見られる。これらの問題を克服することは、開発を
進めていく上で中心的な課題の一つである。これらの苦しみと闘うに際しては、様々な種類の自由が果たす役割を
認識しなければならない。そして、個人的自由が社会的な目標になっていなければならない。
●本書における「開発」
=人間の自由に焦点を当てる開発→開発を、GNPや個人所得の成長などと同一視しない。
・ 自由の拡大が、開発の主要な目的であるとともに手段でもある。
・ 重大な不自由、そしてその主要な原因を取り除くことが開発であり、それが開発の本質を構成する。
・ 開発とは、人々が享受するさまざまの本質的自由を増大するプロセスである。
第1章 自由についての見解
●自由:行動と決定の自由を許すプロセスと、人々が個人的、社会的状況の中で持つ実際の機会の双方に関係
↑↓
不自由:不適切なプロセス(投票権、その他の政治的、市民的権利の侵害)、人々が最低限欲しいと思うも
のを達成するのは不十分な機会(早死、予防可能な病気、非自発的な飢え などを避ける能力の欠如)のい
ずれを通じても起こりうる
●個人の自由に焦点を当てる開発:潜在能力の拡大
・ 潜在能力?人が自ら価値を認める生き方をすることが出来る自由
・ 潜在能力は公共政策によって向上可能、公共政策の方向は一般大衆の参加能力の有効な活用に影響され
得る
・ 所得と潜在能力−個人の潜在能力の欠如と所得の低さは密接に関連
EX:低所得は非識字、不健康、飢えと栄養失調の大きな原因
↑↓
より良い教育と健康は所得を向上するのに役立つ
<貧困はたんに所得が低いということではなく、早死、ひどい栄養失調、いつまでも続く病弱、
広範にわたる非識字などに反映される基本的な潜在能力の欠如である。>
●開発=人間の本質的自由と考えることは、開発を促進する手段や方法にも大きな意味合いを持つ。
●開発を評価するにあたり自由に焦点を当てることには、異なる人々の多様な自由を認める必要がある。
●「自由としての開発」のアプローチの底流にある動機は、開発のプロセスの中の重要な側面に関心を引くこと。
●「自由としての開発」のアプローチにおいては、評価のための検証が本当に大切な事柄に焦点を当てるよう
に、そして決定的に重要な問題を無視することがないように、開発に関しての見方が幅広いことが望まれる。
こういった問題について論じることは重要な政治討論になる可能性があり、開発を特徴づける民主的参加のプロ
セスになり得るのである。
<はじめに・序章・第1章におけるセンの主張>
◎開発の目標をGNPや個人所得の成長にしない。
◎本質的自由の果たす役割を認識する。
◎不自由の原因を削除する。
◎個人的自由を社会的目標にする。
◎自由と開発の関連性を理解する。
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<コメンテーター・レジュメ:松下 あず実>
第2章 開発の目的と自由
・人間開発とは
・ 識字率の上昇 → 政治参加・生産、品質管理能力の上昇・出生率の減少
・ 医療制度 → 経済発展
・ 保健知識 → 乳児死亡率低下
・ 民主主義 → 職業選択の拡大・知識を持つことができる・視野拡大
・開発のプロセスとは
⇒「多くの血と汗と涙」をともなう「苛烈なプロセス」と「優しいプロセス」
⇒その違いは
・苛烈なプロセス * 開発独裁的
* 社会サービス後回し
・優しいプロセス * 相互に利益のある交換
* 社会的安全ネットの機能
* 政治的自由
* 社会開発
* 社会サービス優先
⇒センの言う優しいプロセスとは
・経済の柔軟性、公的行動の対応力などの自由
・個人の自由の確保、拡大。
・成功仲介型の特徴 ―― 経済成長を通じて作動。成功は基盤の広範な経済成長プロセスに依存。
・支援主導型の特徴 ―― 一人当たり所得や実質所得の急増を待って始まるものではなく、死亡率を低下させ、
特に医療や基礎教育によって生活の質を向上させる社会サービスの提供を優先するこ
とによって機能する。
・道具としての自由とは
1.政治的自由 :誰がどのような原理に基づいて統治するのかを人々が決定する機会を目指す。更に最も広い
意味での民主主義に関する政治的エンタイトルメントも含まれる。
⇒討論・言論・政治家選び
2.経済的便宜 :個々の人間が消費・生産・交換の目的で経済資源を活用するために享受する機会のこと。
⇒生産・品質管理・雇用高水準
3.社会的機会 : 個々人より良い暮らしを送るための本質的自由に影響を与える教育、保健などについて
社会が整える体制のこと。
⇒教育(識字率の上昇)・死亡率
4.透明性の保障: 情報公開と透明性の保障のもとで互いに取引をする自由のこと。
⇒情報公開
5.保障の保障: 今にも弱者に転落しそうな人、生活に悪影響を与える物質的な変化の結果、実際に欠乏状態
に陥ってしまうような人達が目を覆うような悲惨、飢餓、または死に追いやられないように
社会的安全ネットを提供するのに必要なもの。
⇒失業者保障
・市場化における中国とインドの対照の異なった側面とは
中国 ⇒ 市場化に転じた際に、既に高度の識字能力を持つ若年層の人口と良好な教育施設を有していた。
このことには、市場制度の支援のおかげでもたらされた機会を生かすのに、教育を受けた人口が大
きな役割を果たしたことが言える。
→基礎教育と医療を広範に普及させることに積極的。大きな変化で成長。→平均寿命の延び。
インド ⇒ 市場化に転じた際、高等教育はエリート層に集中しており、国民の大半に教育は無意味だったの
で、成人人口の半分には、識字能力がなかった。また、基礎的な医療も全く無視されていた。
→ゆっくりとした成長によってなにがしかの成功を収めた。
第3章 自由と正義の基礎
アンナプルナ(雇用主)
ディヌ:3人の中で所得が一番低い
ビシャノ:心理的に一番の不幸
ロジーニ:慢性的な病気で、欠乏状態に耐えている(収入により、生活の質と病からの開放)
功利主義 自由至上主義(liberty)ロールズ(freedom)
情報ベース
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効用全体
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様々な種類の権利・自由
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個人の自由と本質的自由に必要な資源
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限界(問題点)
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・分配に対する無関心、権利、自由、その他、非効用的な関心事の無視、適応と精神的な条件付け。(結果主義。
潜在的に重要な問題を無視)
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・Libertyを優先し、freedomを軽視する。
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・基本財
・ある人が自分自身の総体的利益を判断する際に、(その人が)社会にとっての自由の重要性に与える重みが、その判断に適切に反映されているか。
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利点
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・社会的体制を判断するうえで、その結果を計算に入れることの重要性。
・社会的体制とその結果を判断する際に、影響を受ける人々の福利に注意を払う必要性。
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特徴
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・結果主義
・厚生主義
・総和のランキング・通説
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・自由の絶対的優先
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・個人の自由、本質的自由のために必要な資源に焦点を当てる。
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・功利主義とは
⇒全ての人を一緒にした、効用全体で判断する情報ベース。(総和が大切であり、配分には無関心。)
・自由至上主義とは
⇒幸福や欲望の充足には関心がなく、全面的に様々な種類と権利が情報ベース。
・潜在能力アプローチとは
⇒実現された機能・・・・ ある人がすることに関する情報、ある人が実際になすことができるもの。
Freedomがあるからこそ出来ること。ex)健康、最終的な行動
⇒潜在能力セット・・・・ ある人がすることについての真に自由であるようなものに関する情報。採用され
ない機会は潜在能力セットの自由に反映される。
・なぜセンは3人目を選んだのか?
*ディヌ → 一番貧しい。(所得が低い。) ⇒ 所得だけではない。
*ビシャノ → 一番不幸 ⇒ 功利主義、倫理学ではない。
*ロジーニ → 一番貧しくもないし、一番不幸でもない。
⇒ 病気を治し、潜在能力を発揮することができる
⇒所得だけでは決まらない(潜在能力)→心理的
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<コメンテーター・レジュメ:小野 舞子>
第4章 潜在能力の欠如としての貧困
○所得の貧困と潜在能力の貧困の連関
・ 所得の欠如は、潜在能力を奪う原因
・生活を送る上での潜在能力の向上は、人がもっと生産的になり、高い所得を得る能
力を拡大する傾向があるのだから、潜在能力の改善はより多くの所得につながり、
その逆(所得が潜在能力を改善すること)だけではないことにも期待される。
○潜在能力とは?
・人間として生きる能力 ・元々持っている能力 ・原則的な自由
・本質的な自由、権利 ・ある人が価値あると考える生活を選ぶ真の自由
○潜在能力の欠乏としての貧困の事例
[失業]ヨーロッパ:失業による所得の喪失での貧困は所得補助でまかなわれるが
精神的な傷、労働意欲、社会的疎外感、等は避けられない。
[人種]黒人の高死亡率。
[性別]女の子の健康や医療が無視されていることにより、女の子の死亡率が高い。
○潜在能力が欠如した後の解決法
・ヨーロッパ:保障をあえて小さくし、労働意欲を持たせる。
・アメリカ:暴力による黒人男性の死亡率
→ 地域の安全対策を強化し、死亡率を下げる
→ 政府が社会保障を手厚くする
・女性の高死亡率 → 男性と同等の環境を与える。
※ 中国の一人っ子政策や女児「隠し」について見直す
○センが潜在能力アプローチを支持する理由
1. 貧困が低所得によって起こるとは言い切れない。
2. 潜在能力の欠乏という観点から正しく説明することができ、本質的な重要性
を持つ欠乏
状態に関心を集中するものである。
3. 低所得と低潜在能力の間の媒介的関係は異なる社会、さらに異なる家族や個人
の間ですら可変的である。
公的な優先事項という観点から多様な潜在能力の評価を論じる必要は一つの利点である。それは価値判断が避けられない、また、避けるべきではない分野における価値判断が、何であるかを明確にする事を強いる。こうした価値に対する議論に大衆が参加することは、民主主義の実践と責任ある社会選択の最も重要な部分である。
第5章 市場、国家、社会的機会
○市場メカニズムとは?
人々が互いに関わり合い、相互に利益になる活動を可能にする制度である。
市場制度の利点は、総体的結果をもたらす能力にある。
○市場メカニズム
貧富の差がある→それを改善するために公共財を使う。
○公共財の利点、欠点
利点:教育を受けることによって、利益をもたらす社会的進歩につながる。
欠点:・財政負担になる。
・市場メカニズムの効率が下がる。
・公的支援によって、潜在能力を失わせる。また、それを受けたい
がためにわざと貧困になろうとする。
○公共財の使い方
所得の貧困
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潜在能力の貧困
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ヨーロッパ
→医療、保障(何人も)
所得調査をすればよい。その上で無料サービスを提供すればよい。
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・医療や教育プログムに使う
・環境保全、疫病対策、公的医療
・譲渡不可能な形で無料で支給する
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○どのように公共財を使えば人々の生活が向上するか?○
(所得と潜在能力の両方において)
・社会的機会を創出。
・基礎教育の施設、基礎的な医療施設の存在(寿命の延び)、ある経済活動にとって
決定的な資源の入手可能性などについての適切な公共政策。
・女性に家庭外の仕事や学校教育などを増やす。
市場メカニズムが成功を収めることを可能にするためには、基礎教育の施設、基礎的な医療施設の存在、ある経済活動にとって決定的な資源の入手可能などについての適切な公共政策が要求される。市場にもっと大きな役割を果たさせるための「経済改革」が最重要なときでさえ、これら非市場的な便益については慎重かつ決然とした公的な行動が必要。
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