2004年度育友会奨励賞受賞


フェアトレードで築くパートナーシップ
〜今、何を消費すべきか〜

                       
W13 石田 洋子
W13 小西 美穂
W13 久保田 紋子
W13 市澤 麻由子


    目次

  はじめに

  1章 フェアトレードとは

     フェアトレードの歴史/フェアトレードの仕組み/フェアトレードの現状

   第2章ゼミナールの活動

     フェアトレードへの取り組み/今後の課題

   第3章フェアトレードからみる日本人の消費行動

     アンケート調査/日本人の消費行動

  むすびにかえて


はじめに

 世界人口の約2割が、1日1ドル以下での生活を強いられている。私達のゼミナールで
は、貧困という状態を、政治的、社会的、経済的など多方面から分析している。そして、
原因を考え、開発には何が必要かを討論している。

 私達は、発展途上国が自立した経済発展を実現するための手段の1つが、フェアトレー
ドだと考えている(資料1参照)。そこで、もう一つの貿易の形として、「フェアトレード」に注
目している。先進国である日本にいながら、私達学生が普段の生活を通して、国際協力
をできるという魅力を感じ、ゼミナールでフェアトレードを始めた。そして、私達日本人が
するべきことは何かを考えていきたい。

1章  フェアトレードとは

 フェアトレードの歴史

 フェアトレードとは、世界経済や流通システムの歪みによって、貧困に追いやられてい
る発展途上国の人々を支えるためのものである。
フェアトレードの始まりは、1960年代
にイギリスのオクスファム
(*1)が、発展途上国の民芸品などを、イギリス国内の店舗で
販売したことである。その後、先進国のいくつかのチャリティー団体が、飢饉や戦争、天
災などの被災者を救済するための、資金を集めること以上の何かをしようという意識か
ら、被災地の人々との民芸品を中心とした直接取引を始めた。この取り組みは、「オル
タナティブ・トレード」と呼ばれ、一方的に与えるだけの資金援助とは異なり、現地の
人々が物を作って売るという、あくまで自立を目指した取り組みである。また、救済する
側とされる側という一時的な関係ではなく、継続的なパートナーシップを築くという点で
も、それまでの活動との大きな違いが現れている。


 フェアトレードの仕組み

 フェアトレードは、「南」の弱い立場にある生産者や労働者の権利を保障し、よりよい条
件で取引することで、持続的な開発を支えている。南北の経済格差を是正することのな
かったこれまでの貿易のあり方を見直し、先進国の消費者と発展途上国の生産者の間
に、より直接的な関係を作り上げ、公正さと相互理解の上にたった貿易を展開すること
が、最も重要な任務となっている。

 そのために、フェアトレードを行う会社では、平等な雇用機会の提供、労働条件の改
善、技術の向上、女性の地位向上、公正な賃金の支払い、環境への配慮に、積極的
に取り組んでいる。また、
輸入業者は、フェアトレード商品を市場価格で買い付けるの
ではなく、農家の生活が成り立つように考慮し、「フェア(公正)な」価格で買い付けてい
る。

 国際貿易では、利益の大部分が事業所所有者の手に渡り、生産者にはごく一部しか
渡っていない。しかし、フェアトレードでは、私達が商品に対して支払う金額のより多くの
部分が、生産者に渡る仕組みになっている。また、生産者と消費者が直接取引をするこ
とで、中間マージンが排除され、その分の利益を生産者が受け取ることができる。商品を
生産している団体は、より多くの賃金を生産者に支払うことや、生活困窮者を雇うことを
目的としている。


 フェアトレードの現状

フェアトレードにより、発展途上国では、様々な改善がみられている。 1つ目に、雇用
機会が創出され、労働搾取や貧困、人種・民族・文化・性的な偏見などに苦しむ人々に
対して、平等な雇用機会が提供されるようになったそして、生産者は、生産地の法律お
よびILO協定
(*2)による労働条件の下で保護されているため、不当労働は撤された。

 2つ目に、女性も男性と同様に、技術向上のための研修や職業訓練の場が与えられ、
女性の社会的地位の向上にもつながった。

 3つ目に、原材料に農薬や化学肥料を一切使用せず、生産工程においては、環境に
やさしい適正技術を用い、省エネルギーに努めている。環境に配慮したことで、持続可
能な経済発展の手段を得ることができた。

 最後に、賃金の上昇があげられる。ここは、1番大きな改善が見られた部分でもあり、
生活に与える影響も非常に大きい。これにより所得が上昇し、生活水準が向上したた
め、保健医療サービスを受けることが可能となった。そして、生計を助けるために働か
ざるを得ない子供が減少し、学校へ通えるようになった。このことは、識字率の上昇に
つながり、経済発展にも影響を与えるだろう。

 しかし、このような発展途上国での成果とは異なり、先進国、中でも日本における現状
は、非常に厳しいものである。欧州の消費者は、少し価格の高いフェアトレード商品をす
すんで購入する傾向にあり、またフェアトレードマーク
(*3)表示をした商品の存在を知っ
ている割合が多い。フェアトレードの認知度に関していえば、欧州の平均は約75%であ
るが、それに比べ、日本は5%と、先進国の中でも認知度の低さが際立つ(資料2、3参
照)。その理由はフェアトレードの歴史が欧州では古いが、日本では浅く、NGOなどのごく
一部の人達の間でしか注目されてこなかったことである。また、欧州ではフェアトレード商
品が、スーパーマーケットなど消費者に身近な場所で販売されているが、日本では、他の
商品と肩を並べることはめったにない。

2章  ゼミナールの活動

 フェアトレードへの取り組み

私達のゼミナールでは、フェアトレードの委託販売を行うために、鳳祭での出店を3年
前から始めた(資料4参照)。私達は、少しでも多くの人にフェアトレードを知ってもらいた
いという思いでこの活動を行っている。販売する商品は、置物、お香、ジャムなどで、発
展途上国の生産者が作ったものを、私達自身がカタログから選択している。年に1回の
出店ではあるが、この活動を通してこれまでフェアトレードを知らなかった人達に紹介し、
その輪をさらに拡大していきたいと考えている。

 また、ゼミナールでは定期的にフェアトレード商品の共同購入を行っている。これによ
り、国際協力を身近なものにし、自分達の消費について考える機会を持つようにしてい
る。

 ほかにも、今年の5月に、登戸のオーガニックレストラン「アリエルダイナー」で行われ
たフェアトレードの講演会とファッションショーでは、ボランティアとして司会やモデルを務
めた(資料5参照)。このイベントにより、地域交流を通して地元の方々にフェアトレードを
知ってもらうと同時に、私達自身にとってもフェアトレードに対する理解をさらに深める良
い機会となった。

 今後の課題

3年間の活動を通して、私達の目標と課題がはっきりした。1、2年目は、フェアトレード
の知名度が皆無に等しく、またどのようなものが売れるのかわからなかった。初めての
出店の売り上げは、約6万円だった。2年目は、10万円仕入れるはずの商品が、7万5千
円分しか手元に届かなかった。そのため、売り上げは約5万円に落ちてしまったが、売れ
残った商品は1年目より減少した。

 3年目に最大の課題となったのは、フェアトレードの認知度を上げることであった。また
フェアトレードの商品に抵抗を持っている人が多いため、どうしたら身近に感じてもらうの
かということを考えなければならなかった。また、商品不足を解消することや、お客様に
とって魅力的な商品を選択することも、改善すべき点である。

 これらの課題に対して、様々な改善策をとった。まず、商品不足の解消と商品の選択
肢を広げ商品の種類を増やすために、「フェアトレードカンパニー」
(*4)に加え、「ネパ
リ・バザーロ」
(*5)という会社の委託販売も行うことで、商品を2倍仕入れることにした。
ただ2年目と同じような商品を仕入れるだけでなく、女性のお客様が多く来てくださること
を考慮し、人気のあるお香やキャンドルを中心に仕入れた。また、単価の安い商品を並
べることで、手軽に商品を購入できるようにした。

 さらに、試食コーナーを設置し、実際にいくつかの商品を味見できるようにした(資料6
参照)。また食品だけでなく、インドの伝統染色技術を体験できるように、手彫りのブロッ
クスタンプを使って、オリジナルのポストカードやハンカチを作れるようにした。 この他に
も、値札には原産地や商品の特性を載せるなど、生産者の声が少しでも届くように心が
けた。この結果、3年目の売り上げは、約12万円まで伸びた。1、2年目より、フェアトレー
ドの知名度をあげ、身近に感じてもらうことができたと思う。


第3章      フェアトレードからみる日本人の消費行動

 アンケート調査

 3年間の活動を通して、フェアトレードの知名度の低さを痛感した。そこで、実際のフェア
トレードの知名度や、印象を知るためにアンケート調査を行った(資料7、8参照)。これ
は、専修大学の「発展途上国論」を履修している学生に協力してもらったものである。

 まず、フェアトレードの知名度については、半数の学生が、フェアトレードという言葉を耳
にしたことがあるものの、仕組みを知っている人は、全体の20%であった。また、商品を
購入したことがあるという人は、全体の12%しかいなかった。最後に、第5問では、90%
の人が日本製のジャムを購入すると回答している。発展途上国製のジャムを選択しな
かった理由として、1番多かったのは「品質に不安があるから」というものだった。次に多
かったのは、「食べたことがない」というものや、「まずそうだから」という理由だった。

 このアンケートから、次のことが明らかになった。まずは、フェアトレードの仕組みを理
解している人が非常に少ないということである。また、発展途上国で作られたものに、
抵抗があるということもわかった。特に食品に関して、その傾向が強いように思える。
発展途上国製のジャムを選ばなかった理由の中に、発展途上国というだけで、設備や
衛生面に不安があるという意見もあった。ここから、発展途上国に対して、マイナスイ
メージが先行していることがわかった。

 日本人の消費行動

フェアトレードの商品を販売したことや、アンケートを実施したことで、日本人の消費行
動がみえてきた。
通信販売が流行している現在でも、実際に体験することが消費者に
とっていかに重要であるかがよくわかった。

 また、日本人は発展途上国の現状に対して、無知な部分が非常に多く、関心を示す人
も少ない。私達は、消費者が発展途上国に対して関心を持ち、現状を把握するように努
めなければならないと痛感した。

むすびにかえて 

今年の鳳祭の目標は、フェアトレードに対する更なる知名度・認知度の向上に設定し
た。そのために今年は、昨年のチラシに加え、発展途上国の現状や、フェアトレードの
仕組み、私達の願いなどをパンフレットに載せ、配布する予定だ。こうすることで、さら
に多くの人に発展途上国とフェアトレードに関心を持ってもらうことができるのではない
だろうか。

 また、ゼミ生のフェアトレードに関する知識の向上もしていく予定だ。私達が、フェアト
レードとはどういうもので、どのような効果があるのかということまで説明できなければ、
意味がない。しかし、接客するゼミ生が知識不足であるため、フェアトレードの説明が不
十分であるのが現状である。今後は、私達が何を説明すれば、フェアトレードを理解し関
心を持ってもらえるか考えていきたい。そして、日本人が消費するものが発展途上国に
どのような影響を及ぼすかについて、考え行動するきっかけを、私達はつくるべきである。

 フェアトレードに参加して、私達は自分自身の消費について考えるようになった。私達
人間は、ほぼ毎日買い物をし、何かを消費している生き物である。何をどこで購入するか
という選択肢と決定権を持っているのである。

 私達は、自分達が消費するものにもっと関心を持つべきである。 私達が普段何気な
くしている行動も、見直せば、様々な人や環境に影響しているのである。私達が何かを
購入する時や消費する時に、フェアトレードの商品を選択することで、海外協力や環境
保全になり、さらに発展途上国の開発につながるだろう。しかも、これは、寄付でも援助
でもない。そして、私達はこの流れの重要性に、気づくべきである。そして、生産者と消
費者という壁を越えて、パートナーという関係を築いていきたい。

 脚注

 (*1)オックスファムは、 1942 年に「オックスフォード飢餓救済委員会」としてイギリスで設立された。貧困とその背景にある
 不公正は経済的にも政治的にも解決しうると信じ、貧困をなくす活動を発展途上国で、また自国で行なっている。

 (*2)ILO(International Labor Organization:国際労働機関)が定めた基本的労働基準のことである。ILOとは、労働・生活条
 件の改善を通じて、世界の労働者のための社会正義を実現することを基本目的として設立された国際機関のことである。

(*3)FLOインターナショナル( FairtradeLabelling Organizations International :フェアトレー
ドラベル運動組織) がフェアトレードの国際基準を設定し、それを守って輸入された商品に与
えられた表示のことである。右の図が、フェアトレードマークである。

(*4)フェアトレードカンパニーは、IFAT(International Federation for Alternative Trade:
国際フェアトレード組織連盟)の認証を受けたフェアトレード団体である。アジア、アフリカ、
南米の生産者支援を目的に、フェアトレードによるエコロジー衣料品、雑貨、飲食料、手工芸
品の輸入、販売を行っている。

(*5)ネパリ・バザーロは、ネパールを中心としたアジア諸国のハンディクラフト製品や食品
の企画、開発を行い、継続的に輸入を続けることによって就業の場の拡大をめざすフェアト
レード団体である。

参考文献

飯沼美和、『フェアトレード〜Happy Tradeの可能性〜』、室井ゼミナール論文第29号、2003年 

ミニー・サフィア、『ピープルツリー』、フェアトレードカンパニー株式会社、2003年 

フェアトレードカンパニー株式会社 http://www.peopletree.co.jp/

ネパリ・バザーロ http://www.yk.rim.or.jp/~ngo/indexj.htm

スターバックスコーヒージャパン株式会社 http://www.starbucks.co.jp/ja/home.htm

フェアトレードラベルジャパン http://www.fairtrade-jp.org/

ジャパンフェアトレードセンター http://www.fairtradecenter.org/

有限会社フェアトレーディング http://www.fairbeans.org/



 参考資料


 フェアトレードに関わる生産者の声

チョリ・マヤさん(インド)

 「カーペット工場で働いている頃は、ひと月に800ルピーにしかならず、家族3人
暮らしでも一日一食がやっとでした。しかし、フェアトレードのセーター製造してい
るウールンガーデンで働くようになり、収入は数倍になりました」

●プロドコープ協同組合(ニカラグア)

 「フェアトレードのおかげで、共同購入で使用している機会にモーターを取り付け
ることができました。コーヒーの加工場所を、働きやすいように作り直すことができ
ました」

イリス・ロドリゲスさん(コスタリカ)

 「今はコーヒー価格が非常に低いですが、フェアトレードは借金があっても私たちが生きていけるうに助けてくれます。フェアトレードのおかげで借金に苦しまずに済むし、子供たちに勉強をさせてあげこともできるのでとても安心できます」



 フェアトレードに関するアンケート

以下の質問に答えてください。当てはまるほうに丸をつけてください。

1問.「フェアトレード」という言葉をきいたことがありますか?     

  はい(62人・45.3%)     いいえ
(75人・54.7%)

2問.第1問で「はい」と答えた人に質問です。 
           
 

 フェアトレードの仕組みを知っていますか?                

   はい(28人・20.4%)    いいえ(34人・24.8%)

3問.フェアトレードの商品を購入したことがありますか?        

   はい(16人・11.7%)    いいえ(121人・88.3%)

4問.第3問で「はい」と答えた人に質問です。

 実際に購入したものは何ですか?

  食品  (                               )

  雑貨  (                               )

  衣料品(                               )

5問.もし、スーパーマーケットに同じ価格で、日本と発展途上国で作られた2種類のジャムが
     あったら、どちらのジャムを購入しますか?

     日本製(123人・89.8%)      発展途上国製(14人・10.2%)

6問.第5問で「日本のジャム」と答えた人に質問です。

 発展途上国で作られたジャムを選ばなかった理由はなんですか?(複数回答可)   

  品質に不安があるから(1位)

  価格が高すぎるから(5位)

   まずそうだから(3位)

   食べたことがないから(2位)

   その他(4位)

以上です。ご協力ありがとうございました。

 国際経済学科  石田 洋子  小西 美穂  久保田 紋子  市澤 麻由子