ルワンダへ行った動機と専修大学でできること


狩野 歩夢(経済学部)



 私は専修大学経済学部国際経済学科2年次の5月から今までMPJ Youth(ミレニアム・プロミス・ジャパン・ユース)という学生団体に所属し、この学生団体の仲間と共にルワンダという国(アフリカ中東部)に行く企画を考え、2011 年3月に実行した。ルワンダ渡航のメンバーはMPJYouth に所属する、中央大学、慶應義塾大学、神戸大学、東京大学・大学院、そして専修大学の私を含めた計14名の学生・大学院生であり、半年間かけて準備し企画を実行した。

 MPJ Youth は、東京大学法学部北岡伸一教授と、夫人で元電通総研主任研究員の鈴木りえこ氏が設立したNPO法人、ミレニアム・プロミス・ジャパン(MPJ)の活動に賛同する学生を中心に2008年に結成された団体である。MPJはジェフリー・サックス教授(コロンビア大学地球研究所長・国連ミレニアム開発目標(MDGs)担当・国連事務総長特別顧問)により、MDGs(=国連が発展途上国や、サブサハラ・アフリカを中心に起こっている問題を解決、改善すべく2000年に定めた8つの目標。 1. 極度の貧困と飢餓の撲滅。 2. 普遍的初等教育 の普及。 3. 女性の地位向上とジェンダーの平等の推 進。 4. 乳幼児死亡率の削減。 5. 妊産婦の健康の 改善。 6. HIV/AIDS、マラリア、その他疫病による疾患の防止。 7. 環境の持続可能性の確保。 8. 国際的な協力の取り組み。 この8つを数値で測定できるさらに細かい目標に分け、2015 年までに達成すべく、世界に住む様々な人が取り組んでいる目標)達成のため、1 日1ドル未満で暮らす人々が世界で最も多いサハラ砂漠以南のアフリカにおいて極度の貧困をなくすために設立された、ニューヨークのNPO 法人ミレニアム・プロミスを支援している。MPJ Youth は「人と会う。自分を定める。世界に向かう。日本を変える。アフリカで」という理念のもとで、様々な分野の人に会い、他者と揉まれあい、自分を定め、成長させるためのきっかけとして日々活動を行っている。過去の活動として、ミレニアムビレッジにおけるインターン、アフリカを題材とした各種イベント(ジェフリー・サックス教授、アメリカ各国の在日大使、また国連開発計画の駐日代表を招き講演をしていただくなど)、週に一度の勉強会の開催、各国の大学生との国際交流活動などを行い、グローバルフェスティバルなどのイベントに参加してきた。メンバーは東京大学・東京大学公共政策大学院を中心に45 名で活動を行っている。

 なぜ、私が約1年と半年前にMPJ Youthの一員になろう、ここで他大学の仲間と学び合おうと決めたかというと、私がアフリカに興味があり、また、援助者と被援助者の関係や、どのようにしたら現地の方々(発展途上国に住む方々)の力になれるのか、彼らの発展や喜び、よりよい生活の向上に寄与できるかを本気で学び、考え、自分の答えを見出していき、それを実践したいと熱望していたからである。
 私がアフリカに目を向けたのは高校1年生の時である。当時私は友達とのコミュニケーションが上手くとれず、恋愛でも失敗し、うつ病、人間不信、パニック障害のような精神病を患った。家族や周りの仲間に多大な迷惑をかけ、心配もさせてしまったが、周りの仲間や家族の支えのおかげで立ち直ることができた。またこのような状態の時、テレビでアフリカのスラムの映像を見たとき、現地の人は泥水を飲み、電気もなく、家もボロボロ木造で貧しい生活を強いられていたが、現地の人はみな笑顔で、人と人のつながりを大切にし、貧困に負けず、強く、日々を楽しんで生きていた。私はその映像をみて、自分は欲しい物はすぐに手に入り、こんなに豊かな生活ができているのに何を悩んでいるのだと思い、立ち直るきっかけなった。家族や友達に支えられ、アフリカに住む方々にも元気をもらった。いつか家族や周りの人に恩返しをし、少しでもアフリカや世界で困っていて本当に助けが必要な方の力になれたらと思うようになった。そのためにもアフリカの現状を知り、本気で学びたい、現地に赴き少しでも力必要としてくれる人の力になりたい、という思いのもと、専修大学の経済学部国際経済学科に進学し、アフリカや第三世界の研究を行う室井義雄教授のゼミに入り、そしてMPJ Youthの一員として学ぶことを決意した。

 ルワンダで行ったことを大きく三つに分けると、一つ目は学生会議。二つ目は、開発に携わる方からお話を伺い、討論会の実施。三つ目は、ミレニアムビレッジ視察、である。
 一つ目の学生会議ではルワンダ国立大学でMPJYouthメンバーはルワンダ大学学生と学生会議を行った。会議では主に「開発援助に関して」をトピックとし、より現地の人の自立に役立つ開発と援助を目指し、援助する側と援助される側の視点をぶつけ合った。
 二つ目の討論会では、ルワンダ大統領府、ルワンダ中央銀行、経団連、ルワンダJICA事務所、UNDP(国連開発計画)事務所、ルワンダ虐殺記念館、ルワンダ大使、等様々な機関・関係者を訪問しお話を聞かせていただき、討論を行った。
 三つ目のミレニアムビレッジとは、ジェフリー・サックス教授が提唱する「私たちの世代は歴史上初めて極度の貧困を終わらせることができる」という理論を証明すべく、コロンビア大学、国連開発計画、NPO法人ミレニアムプロミスが共同して実施している国際的な取り組みのこと。現在アフリカの10 カ国80 の村々に住む極度の貧困層50 万人を対象に、包括的な援助を行い5カ年で住民のサステイナブルな自立を目指している。包括的な援助とは、1. 農業 2. 基本的健康 3. 教育 4. 電力、輸送、電信 5. 安全な飲料水と衛生設備 の5つの面であり、ミレニアムビレッジプロジェクトではこの包括的アプローチによる国連ミレニアム開発目標の達成可能性を探っている、いわばモデルケースとなる村のことである。この村を訪問し、ビレッジの役割と効果、良い点、改善点を模索した。また、実際にミレニアム開発目標達成に向けて数多くの成功例を生み出しているミレニアムビレッジを見学し将来に向けての参考となるとともに、意識の変化、貧困や途上国の問題は改善できるのだということを改めて思い返すきっかけとなった。

 私自身のルワンダ渡航においての目的は、三点あった。
 一つは、ルワンダの現状や問題をうかがい、現状を知る。そして、先進国や日本の問題点や反省点、成功例を渡航前に学び考えること。さらに、そのことを現地で伝え今後のルワンダの問題解決や発展をどのようにしていくべきか、ルワンダに生きる学生と共に考え、解決案を出し合うことだ。
 アメリカのサブプライムローン問題や、欧州の金融危機など、市場経済の風潮(メカニズム)(個人の利益を最大化することは正しい)に様々な問題が生じているこのご時世において、近代化とはアメリカや欧州のような発展をすることだけが正しい道ではないと私は考える。日本は発展していく過程で、農業改革失敗と改善、公害、人と人とのつながりの脆弱さ、自殺者の増加、環境問題、原子力発電のようなエネルギー問題等、様々な問題が発生し改善してきたものもあった。途上国に住む方々は、先進国の成功例、失敗例を聞き、自国やその地域のアイデンティティーや文化を大切に、途上国に住む人々やその地域に暮らす人々が本当に良い発展のプロセスは何かを考え、話し合い、先進国の例を参考にしていただけたらと思い、このような目的意識を持ち、渡航に参加した。
 二つ目は、援助やルワンダの現状打開・改善に携わる様々な人とコミュニケーションをとり、望ましい開発等を考え自分の意見を見出すこと、アフリカや途上国で暮らす人にとってよりよい発展に寄与するにはどうすべきか、どのようなアプローチがあるか考えだすことも目的の一つであった。
 そして、最後に、専修大学在学中に何ができるのか、どのような活動をしていくべきかを考え帰国後実行するというのが一番の目的であった。
ルワンダ行きの飛行機に乗った途端、アフリカという日本からはるか遠くの国に行くという緊張感からか、すぐに眠りについてしまった。そして、30 時間が経過したのち、飛行機の中寝ぼけた瞼をこすると、緑の丘が広がっていた。ルワンダが千の丘の国と呼ばれる意味を目の当たりにした。

 ルワンダに行く前の私の印象は、虐殺、貧困、マラリア、危険等、悪いイメージばかりだったが、実際にルワンダのキガリやマヤンゲ村に滞在し、確かに貧困という現実は目の当たりにしたが、虐殺から立ち上がり、発展している地域もあり、自然が美しく、出会った人々はみな思い やりの心を持っていて、悪いイメージは日が経つにつれて薄れていった。ルワンダで様々な経験をしたが、私が一番印象に残ったことを述べさせていただきたい。
 虐殺記念館にルワンダ大学学生と行き、彼らの親や家族が皆殺しにされ、その現場がまだ目に焼き付いている彼らから、いつ殺されるかもわからない、毎日が真っ暗なトンネルのような100 日間の生活を強いられていた、大虐殺の際に体験した事実を直接聞いたことは今も走馬灯のように私の頭の中をよぎる。
 虐殺記念館の帰りのバスで、ルワンダ大学学生全員が、バス中に響くような大きな声でルワンダの伝統的音楽「Rwanda has changed」という歌を歌っていた。虐殺という悲惨な過去を皆で協力して乗り越えその寂しさを力に変えようという彼らの思いがひしひしと伝わってき た。
 「つらい思いをしたからこそ、仲間や家族の大切さが身にしみてわかる」と1994 年、100 日間に100 万人が殺されるという大虐殺の中、生き延びたルワンダ学生がいうように、自分も周りの仲間や家族をもっと大切にしなくてはと心から思った。
 また国をよりよくするため、生き残った周りの仲間の生活をよりよくするため、1日平均8時間以上死に物狂いで勉強し、自分の国は自分で変えるのだと熱望しているルワンダ大学学生の努力と精神を見習って、私ももっともっと頑張らないと、という思いを持った。ルワンダで過ごした一日一日、一つ一つの行動がとても刺激的で、考えさせられ、勉強になった。ルワンダに渡航した1人の人間として、アフリカで学んだことや経験したことを、1人でも多くの興味のある方に語り継ぎ、アフリカが日本人にとってもっと身近な存在になる日が来ることを切に願っている。

 ルワンダから帰国した2日後に、OXFAM(イギリスで設立されたNGO。世界98カ国で、そこに住む人々と共に活動する民間の支援団体である。貧困に生きる人々がその貧困から抜け出そうとする努力をサポートし、また貧困そのものを根本的になくす、そしてより公正な世界を創造するために活動を行っている)が主催する4泊5日のチェンジリーダー育成強化合宿に参加し、なぜ貧困や社会の不公正が起こっているのか、どのようにしたら、貧困解決やMDGs達成に向けた活動が学生でできるのか、グループの立ち上げから、グループマネジメント、ビジョンと実践、リーダーシップ、リクルートメント、イベントマネジメント、コミュニティファンドレイジング、情報発信や情報管理等、学生団体を立ち上げ活動を行うための様々なノウハウを学ばせていただいた。
 そして、ルワンダ帰国から1週間後、専修大学にいる私と似たような、ミレニアム開発目標に携わりたい、途上国の方々の未来に関与させていただきたいというような思いや考えを持った仲間を集い、経済学部国際経済学科教授の狐崎知己教授を顧問とした学生団体を立ち上げた。学生団体の目的は二つ。
  1. 貧困の無い、より公正な社会の実現。
  2. キャンパスから自他共に世界を変える。
である。
 この学生団体の仲間も様々な国に渡航し、文化、現地の状況、問題を肌で感じた専修大学生同士であり、学年や学部学科を超え、貧困やミレニアム開発目標解決に少しでもかかわる活動(知識の共有や、勉強会開催、啓発活動やイベントの主催等)を共に行っていき、まずは専大の学生同士の輪を広げていきたい。そして、キャンパスで自分自身、この団体に所属する仲間一人ひとりが成長し、よりよく変化し、自分の周りを取り巻く環境や日本国内、世界に住む不公正な環境に生活を強いられている方々の世界を変えることを目的に、全力で取り組んでいきたい。
 また、チェンジリーダー強化合宿では日本各地の大学から参加し、交流し、仲間となった。一つの大学の活動は些細なことかもしれない。しかし、全国各地の大学で学生による活動が活発化し、また、大学の壁を越えて情報や成果を共有し合い、フィードバックし合い、本気で議論を交わし、時には協力して活動を行えば、将来いつかアフリカや途上国に存在する貧困やミレニアム開発目標にある途上国の問題が改善され、無くなる日が来ると信じている。

 途上国で現在起こっている問題はつり竿の先にある釣り糸と例える事ができると私は考える。現在は、一つ一つの問題が深刻であり、かつ、その深刻な問題(釣り糸)が複雑に絡まり、複合的な問題となっている。しかし、釣り糸を紐解いて、一つ一つの問題にフォーカスして、数値目標を定め、中長期的な視野で取り組めば問題は必ず解決できると強く主張したい。ただ、糸をほどくのが大変であり、無理だとあきらめてしまう人もいるだろ。しかし、私は、目の前に困った人がいようが、日本から遠く離れたアフリカに困った人がいようが同じ人間であることには変わりないし、その問題が解決困難だとしても、解決できると信じて絶対にあきらめたくない。貧困や途上国で起こっている問題は人間が作りだした、生み出したものだから、人間の手によって改善し克服し、よりよくすることができると心に誓いつつ、常に今何をすべきか、何ができるのか、本当にしたいことは何かを自問自答しながら、ルワンダで出会った学生のように強い意志を持ち続け、一日一日を全力で生きていく。


 第12回育友会奨励賞表彰者
表彰者・団体・本人コメント 主題(テーマ)及び講評
狩野 歩夢(経済学部)
ルワンダの若者は、本気で国のことを考えていました。この活動は、自分も自国について考える機会になりました。
ルワンダへ行った動機と専修大学でできること
発展途上国であるアフリカのルワンダに関心を持ち、現地で生じている貧困や不公正の問題に向き合い、それらが生じている理由や、それを克服するためにはどのようにしたら良いか、その解決方法を深く考え、帰国後も、世界に向けた貧困や不公正の問題解決を指向した団体を立ち上げ、かつその活動を継続している、という姿を評価しました。